成長の階段
シュウくん(仮名)はアトリエ歴7ヶ月くらい1年生の男の子。
最初にアトリエに来たときには、2時間のアトリエのうち1時間30分は玄関の中にさえ入ろうとせず、
やっと入ってきても、インストラクターが声を掛けるのを頑なに拒んでいました。
そんな感じが3回くらい続き、4回目くらいからは、30分くらいするとアトリエに入ってこられるようになってきました。
アトリエのテーブルの前に座ると、何も耳に入れまいとするかのように、ピリピリした雰囲気のまま
あらかじめ作ろうと考えてきたものだけをガーっとわき目も振らず作業する。
しばらくはそんなアトリエが続いていたのです。
そのうちに、外で過ごす時間はまったくなくなって、アトリエに入るとわき目も振らずいくつもいくつも作品を作り続ける。
であらかじめ考えてきたノルマが終わると、さっさと帰ってゆくという感じになってきました。
口にするのは「話しかけないでください。」「静かにしてください。」・・と取り付く島もない。
そうこうしているうちに大分アトリエにも私にも慣れてきたのか、時折作っているものの説明くらいはしてくれるようになった。
それでも、うっかり踏み込みすぎると、ピシャッとやられてしまいます。
あるとき、画用紙にカラフルなマジックでその日作るつもりのキャラクターを沢山描いたものをうっかり忘れていったことがありました。
とても丁寧に描かれてあるので、わたしはそれをアトリエの壁いっぱいの他の子どもたちの作品の一角にテープで貼りました。
次のアトリエの時、彼は真っ先に自分の作品を見つけ、何か言うかな?と思っていたのですが、
彼は何も言わずそっとなでてから創作を始めました。
心なしか雰囲気が柔らかくなっているのを感じました。
そして、4月29日のダンボールワークショップ「ダンボールで子ども島を作ろう」がやってきました。
およそ120人規模の大きなワークショップです。
発達にでこぼこがあり、日ごろは叱られることの多い子どもたち。
この日はお約束事として、親御さんに、「一切の指示、怒る、叱るは無し!提案はあり。ずっとにこにこしていること。」と事前ワークで告げてあります。
シュウくんも、クラスの仲良しのお友達親子さん、お母さんとともにやってきました。
この日は茅ヶ崎リハビリテーション学校の生徒さんの研修も兼ねていて、なんと、子ども1人にもれなく1人の学生ボランティアがまるで守護天使のように付き従うというかなり贅沢なワークショップ。
シュウくんの守護天使はやさしいお兄さん。
徹底的にシュウくんの手足となり、空想遊びに付き合い、シュウくんが納得できるダンボールの家を楽しげに作ってくれるお兄さん。
お母さんも今日ばかりは「怒る、叱る、注意する」から開放されて、見るからにリラックスして、楽しそうに過ごしていらした。
びっくりしたのは、あの超人見知りなシュウくんが知らない人にまで、自分の家を見に来てくれるよう誘ったり、お兄さんと楽しそうに会話をしながら笑っていたりしたことです。
しかも離れたところで作業していた私のところにも何回もやって来て話しかけてきました。
「すごくおもしろいですよ~」「今度またいつやるんですか?」(私の作業している手元を見て)「うっちゃん今何してるんですか?」日ごろは、人が何をしていようがぜんぜん注意を払おうとしなかった子がです!!
お母さんに伺ったところ、「いつもなら、「うっちゃんにあいさつしようよ。」といっても「いいです!」と言っていたのに。
今日は自分から「うっちゃんどこかなー?ちょっといってくるね!!」と言って走って行ったんですよ。」とのこと。
朝10時から4時ごろまでの長時間のワークショップの間誰一人泣かず、ぐずらずトラブルもなく、どの子もどの大人もみな楽しそうに過ごすことができた私的には大成功といっていいワークショップだったと思います。
シュウくんも、帰りは鼻歌が出るくらい大満足であったとお母さんからのメールで知らされました。
で、昨日のアトリエ。
ワークショップが終わってからはじめてのアトリエ。
始めこそ少し硬い表情だった彼だが、私が隣に座ってネンドで色を作るお手伝いをすることを許してくれました!
隣でネンドをこねている私に、今作っているもののことを詳しく説明してくれます。
私の指に粘土の塊(茶色)をつきさして、「指輪です」シュウくんのほうから関わってきてくれたなんて、始めて!!
また、いつもは触らせてもくれない大事な「カービー」の漫画の本を見せてくれたりもしました。
少ししたら、もう1回青のネンドをわたしの指に突き刺してくれて「指輪です。」と。
そのうちに、遅れてきたもう1人の男の子がきたのだが、
その子がそばにくると、始めのうちはいつもどおり「そばに来ないでください。」と拒否。
ここまではいつもと同じでしたが、、しばらくすると、「うっちゃん、旅に行って木の実を取ってきてください。」という。
そこからは、始めはシュウくんだけ、そのうちには子どもたち2人協力してストーリーを作り出しはじめました。
ジャングルのなかワニに襲われたり、小舟に乗って滝から落ちたり、
洞窟が行き止まりだったり、蜂に追いかけられたりする。
こうもりに襲われたり、山が急斜面でなかなか登れなかったり・・・
それを、私にお芝居させる。
たくさんの艱難辛苦が用意されているのだが、「こわいよ~助けてシュウくん!!」というと、
懐中電灯やスコップ、丈夫でするする楽に登れるロープ、よく切れる剣などを転送してきてくれる。
私は、剣で沢山のワニと戦って、焼いて食べたり(子どもたち二人とも食べるまね)
行き止まりの洞窟をスコップで掘って掘って、やっと向こう側に出たり、
舟がふわっと浮かんで助かったりと、それを乗り越えてゆくというストーリー。
「シュウくんには、これまで判らなかったり、困ったり、沢山の傷つきがあったんだろうな・・
それをストーリーの中で乗り越えているんじゃないかな・・。」と感じました。
無事、私がミッションをクリアーして現実に帰ってきたら、シュウくんは私に「金の指輪だよ。」と言って、黄色いネンドを、こんどは指に突き刺すのではなく、細くしたネンドを優しく指に巻きつけた、本当っぽい指輪をくれました。
しかも、真ん中に真っ赤なルビーだよと言って、赤いネンドを丸くしたものまで付けて♪。
シュウくんにとって、沢山の冒険の果て、そこまでして取ってこなければならなかった「木の実」ってなんだったんだろう?
これからゆっくり考えてゆこうと思う。
ところで、シュウくんは冒険が終わった後、もう一人の旅の仲間になってくれた男の子の服にも、ピンクのネンドを擦り付けていました。
ちなみに、指輪(・・・は初めてでしたが・・)とネンドの擦り付け、この二つの行為は、アトリエで子どもが心を開いてくれたときに必ずといっていいほどやる、「マーキング行為」なのです。
「この人は僕の心に入れてもいい人だ。」と認めてくれたという大切な証。
私は貰った指輪を、しっかりと壊れないように透明なケースに大事に仕舞いました。
これから先、これを目にするたび、この日のアトリエの心が震える感じを思い出すだろうな。


と驚かされることがあります。








